「自分がされて嫌なことは人にしない」は本当に正しいのか?価値観の違いから考える人間関係

はじめに:「自分がされて嫌なことは人にしない」とは?
「自分がされて嫌なことは人にしない」
この言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。子どもへのしつけの言葉としてもよく使われますし、社会人になってからも人間関係の基本ルールのように語られることがあります。
私自身も、子どもに注意するときについ口にしてしまいます。
「そんなことをしたら相手が嫌な気持ちになるよ。自分だってされたら嫌でしょう?」と。
確かに、この言葉は分かりやすい指針に聞こえます。ですが、ふと冷静に考えてみると、果たしてそれは本当に正しいのだろうか?という疑問がわいてきました。
「嫌なこと」や「好きなこと」は人によって違う
考えてみれば当たり前のことですが、「自分が嫌なこと」と「他人が嫌なこと」は同じではありません。
例えば、
- ある人は「一人の時間を大切にしたい」ので、休日に急に誘われるのを嫌います。
- 別の人は「友達から気軽に声をかけてもらえる」ことを嬉しく感じます。
同じ「休日の急な誘い」でも、片方にとっては迷惑で、もう片方にとっては喜びになるのです。
また、仕事の場面でもそうです。
- 「細かくフィードバックしてもらえる方がありがたい」と思う人もいれば、
- 「任せてもらった方がやる気が出る」という人もいます。
つまり「自分基準の嫌・好き」と「相手基準の嫌・好き」は必ずしも一致しないのです。
黄金律と白金律の違いから見る人間関係
この話を掘り下げていくと、「黄金律」と「白金律」という考え方に行きつきます。
- 黄金律:「自分がしてほしいことを他人にもしなさい」
- 白金律:「相手がしてほしいことを、相手にしなさい」
私たちがよく耳にする「自分がされて嫌なことは人にしない」というのは、黄金律に近い考え方です。
一見シンプルで分かりやすいのですが、相手の価値観が自分と違う場合にはうまく機能しません。
一方で白金律は「相手がどう感じるか」を基準にしています。
ただし、これもまた難しいのです。なぜなら、相手が望んでいることを100%理解するのは不可能だからです。
結局のところ大切なのは、「自分と他者は思っている以上に違う」という前提を持ったうえで、相手を想像しようとする姿勢なのだと思います。
家庭内で起きる「価値観のすれ違い」
夫婦や家族の間でも、この違いはよく表れます。
例えば、妻が「記念日には一緒に過ごしたい」と思っているのに、夫は「特別なイベントよりも普段通りに過ごす方が心地いい」と考えていたとします。
妻からすると「記念日を大事にしてくれない=愛情が足りない」と感じますが、夫からすれば「普段通りでいることが一番の愛情表現」かもしれません。
どちらも悪気はなく、それぞれが「自分だったらこうするのが嬉しい」と思うことを行動に移しているのです。
しかし結果的には、すれ違いが生まれてしまう。
ここでも「自分がされて嫌なことは人にしない」では不十分であることがよく分かります。
職場での「自分基準」が引き起こす誤解
職場ではさらに多様な価値観が交差します。
ある上司は「自分は厳しくされて育ったから、部下にも厳しく接することが愛情だ」と考えるかもしれません。
一方、部下は「自分は褒められて伸びるタイプ。厳しくされると萎縮してしまう」と感じるかもしれません。
このとき、上司が「自分がされてきたこと」をそのまま部下に適用すると、かえって逆効果になってしまいます。
人によっては「叱られて伸びる」こともありますが、別の人にとっては「信頼されて任されること」で力を発揮するのです。
多様性の時代に求められる考え方
かつての日本社会には「共通の正解」がありました。
昭和の時代であれば、終身雇用が前提で、「みんな同じように働き、同じように家庭を築く」ことが理想像とされていました。
その時代であれば、「自分が嫌なことは人も嫌だろう」という考えがある程度通用したのかもしれません。
しかし令和の今は違います。
働き方も生き方も多様化し、誰もがそれぞれの答えを探しながら生きています。
正解が一つではない時代だからこそ、「自分基準」ではなく「相手基準」で物事を考える力がますます大事になっているのです。
「相手基準」を実践するための3つの方法
とはいえ、相手が何を嫌がるのか、何を好むのかを完全に理解するのは不可能です。
だからこそ大事なのは、次のような姿勢です。
- 相手に質問する勇気を持つ
「私はこう思うけど、あなたはどう?」と聞いてみること。 - 相手の反応を観察する
相手の表情や言葉から、心地よさ・違和感を読み取る。 - 押しつけずに修正する
「これは違ったかな?」と感じたら素直に軌道修正する。
こうした積み重ねが、より良い人間関係を築いていくのだと思います。
まとめ:「違い」を前提にした方が生きやすい
「自分がされて嫌なことは人にしない」という言葉は、一見正しく聞こえます。
でも実際には、人それぞれ感じ方や価値観が異なるため、そのまま当てはめるとすれ違いを生んでしまうことも多いのです。
だからこそ、これからの時代に必要なのは 「自分と他者は思っている以上に違う」 という認識です。
違いを前提にすれば、相手を尊重することが自然にでき、無用な衝突も減らせます。
そして何より、自分自身も「自分と違う相手」に出会うことを楽しめるようになります。
あなたへの問いかけ
最後に、少し考えてみてください。
- あなたにとって「絶対に嫌なこと」は、他の人にとっても本当に嫌なことでしょうか?
- あなたが「すごく嬉しい」と思うことは、相手にとっても同じくらい嬉しいことでしょうか?
この問いに答えを出そうとすること自体が、人との関わりをより豊かにしていくのだと思います。

あなたはどう感じますか?
「自分にとっては嬉しかったけど、相手にとってはそうじゃなかった」
そんな経験、きっと一度はあるのではないでしょうか。